あんぽ柿全数測定の原理

1.はじめに
 あんぽ柿 は干し柿の一種ですが独特の製法により半分生のようなジューシーで柔らかいのが特徴です。主産地は福島県北部の伊達地区(伊達市、桑折町、国見町)ですが、この辺りは避難区域を除けば放射性物質汚染のもとっとも酷い場所です。今年(2013年)の検査でも基準値の倍以上の放射性セシウムが見つかっています。
      
(a)あんぽ柿のセシウム濃度                  (b)伊達地区
 ※(1)より引用
 図―1 伊達地区のあんぽ柿のセシウム濃度と位置

 でも、今年は出荷が再開されました。なんでも全数検査するそうです(1)。でも検査精度を担保するテータを見つけることができません。十分な精度があるか心配です。幸い、福島大学が詳細なパラメータなどを公表しています(2)。これを元に装置の構成や測定手順を(=^・^=)なりに整理してみました。そしたら
 @補正を加えると誤差が減る
 Aカリウム40の濃度が3分の1程度
とのおかしな結果がでました。

2.全数検査装置の構成

 以下に諸般の資料から推定した検査装置の構成を示します。



 図―2 あんぽ柿検査装置

 あんぽ柿は検査にセット可能な専用のパッケージにいれます(3)。以下にパッケージを示します。

 ※(4)よりキャプチャー
 図―3 伊達あんぽ柿専用パッケージ

一つの箱に2×4で8パッケージが入っています。パッケージの上下には放射線検出器がセットされています(2)。以下に放射線検出器の画像を示します。

※(2)より引用
 図ー4 あんぽ柿用の放射線検出器

図に示すとおり上側に16個、下側に16個あります。検査装置の断面図を以下に示します。

 図―5 検査装置のパッケージ

 1つのパッケージの上下の各2個(合計4個)の放射線検出器が取り付けられており、それぞれであんぽ柿から飛び出してくる放射線を計測し、放射性物質濃度を計測します。

2.計測はどのように行われているか

以下に詳細な検査結果画面を示します。

 ※(2)より引用
 図―6 詳細な検査結果画面

これを(=^・^=)なりに判読した結果は以下の通りです。記号と単位、そして平均は(=^・^=)が追加しました。


表―1 あんぽ柿検査の詳細パラメータ

記号 項目 単位 セル1 セル2 セル3 セル4 セル5 セル6 平均
a 検出器A 計数率 /sec 1.19 1.11 1.23 1.34 1.2 1.28 1.23
b 検出器B 計数率 /sec 1.04 1 1.3 1.18 1.19 1.33 1.17
c 検出器C 計数率 /sec 1.06 1.18 1.13 1.31 1.06 1.28 1.17
d 検出器D 計数率 /sec 1.14 0.85 1.25 1.15 1.34 1.18 1.15
e 測定時間 sec 80 80 80 80 80 80 80
f Summerd Cs係数率 /sec 4.43 4.13 4.9 4.97 4.79 5.05 4.71
g Summerd K係数率 /sec 0.98 1.13 1.2 0.94 1.02 1.02 1.05
h BG Cs係数率 /sec 3.32 3.39 3.49 3.41 3.35 3.33 3.38
i BG K係数率 /sec 0.48 0.49 0.49 0.51 0.5 0.5 0.50
j BG計測時間 sec 1800 1800 1800 1800 1800 1800 1800
k Kからの寄与係数 1.4922 1.4922 1.4922 1.4922 1.4922 1.4922 1.4922
l トータルCs放出比 1 1 1 1 1 1 1.00
m Cs効率 0.1561 0.1561 0.1561 0.1561 0.1561 0.1561 0.1561
n Csコンプトン寄与係数 1.12 1.12 1.12 1.12 1.12 1.12 1.12
o 補正係数 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.10
p 試料重量 kg 0.24 0.24 0.24 0.24 0.24 0.24 0.24
q 補正なし濃度 Bq/kg 9.66 0 9.26 24.04 17.2 24.74 14.15
r 補正なし濃度誤差 Bq/kg 6.75 6.7 7.24 7.04 7.01 7.17 6.99
s 補正なし検出限界濃度閾値 Bq/kg 20.26 20.09 21.73 21.02 21.68 21.5 21.05
t 補正なし測定下限値閾値 Bq/kg 18.03 18.63 19.07 18.19 17.32 18.14 18.23
u CTC補正濃度 Bq/kg 7 0 0.04 17.16 10.49 18.31 8.83
CTC補正濃度誤差 Bq/kg 6.65 6.48 7.4 7.48 7.48 7.14 7.11
CTC検出限界濃度閾値 Bq/kg 19.95 19.44 22.21 23.44 22.43 21.41 21.48
CTC測定下限値閾値 Bq/kg 21.38 22.27 24.6 24.11 24.07 22.02 23.08
y 検出限界濃度25Bq到達時間 sec 50.94 63.16 63.16 70.36 64.39 53.07 60.85
測定時間下限25Bq到達時間 sec 58.52 77.48 77.43 74.43 74.18 67.06 71.52



以下に(=^・^=)の推定を示します。
 a〜d:それぞれの放射線検出器が捕まえたセシウム由来の放射性物質の1秒当たりの数
 e:測定時間(80秒で一定)
 f:Summerd Cs係数率
  4つの放射線検出器が捕まえたセシウム由来の放射性物質の1秒当たりの数の合計
g:Summerd K係数率
  4つの放射線検出器が捕まえたカリウム由来の放射性物質の1秒当たりの数の合計。あんぽ柿なんどの干し柿は概ね100g当たり0.67gのカリウムを含みます(5)。カリウムは1g当たり、31ベクレルのカリウム40由来の放射性物質を含みます。カリウムが出す放射線のうち11.2%はガンマ線で、放射線検査装置に入ります。カリウム由来のガンマ線とカリウム由来のガンマ線ではエネルギーが違います。カリウム40から出て来る放射線は1.46MeVですが、セシウム134から出てくる放射線は0.6MeVと0.8MeVで、セシウム137から出てくる放射線は0.66MeVです(7)。セシウム由来のガンマ線のエネルギーはカリウム40由来のガンマ線のエネルギーの半分程度などで、区別がつきます。なおMeVはエネルギーの単位(8)で、(=^・^=)なりに換算すると
 1兆MeV=0.16J=0.00004Kcal
になります。
h:BG Cs係数率
 あんぽ柿の検査が実施されている場所を以下に示しますが、どれも放射線量の高い場所です。
 
※(3)(9)(10)(11)より作成
 図―7 あんぽ柿の検査場所

いくらセンサーの周りを金属で覆ってガンマ線を遮ったとしても放射線検出器に外からのガンマ線が飛び込んできます。検査の時にこの分を差し引きする必要があります。1秒間に外から飛び込んでくるセシウム由来のガンマ線の数を表します、

i:BG K係数率
 カリウムは地殻中では2.6%を占める7番目に存在量の多い元素であり(6)、カリウム40からの放射線はどこでも飛んでいますので、この分も差し引く必要があります。1秒間に外から飛び込んでくるセシウム由来のガンマ線の数を表します。

j:BG計測時間
 すでに述べたとおり、セシウムやカリウム40からの放射線は外から飛び込んで来ますし、場合によっては測定器のなかにもあるかも知れません。このように検査対象となるあんぽ柿(試料)によらない放射線をバッググランド(BG)と呼びます(12)。この値は装置が空(あんぽ柿が無い状態)で測定します。その測定にようした時間です。

k:Kからの寄与係数
 カリウム40からの放射線がそのまま放射線検出器に入ってくれれば問題ないのですが、途中で衝突しエネルギーが下がることもある(13)と思います。
 
 ※(13)から引用
 図―8 電子に当たりエネルギーが落ちるガンマ線

この中にはセシウム由来のガンマ線と同じエネルギーのガンマ線に化けるのもあると思います。あるいは高速の電子(ベータ線)が、物質の衝突すると放射線(制動X線)を出すことが知られていますが(14)、これがセシウム由来と放射線と同じエネルギーなら誤ってカウントされてしまいます。そこで、カリウム40からの放射線1個に対し、セシウム由来の放射線と区別できない放射線がいくつ生じるかを表す数値だと(=^・^=)は想像しています。表にある通り、あんぽ柿検査装置では、カリウム40由来の放射線が1個見つかると、セシウム由来の放射線に化けたものが1.4922個でているはずだとしています。

m:Cs効率
 あんぽ柿から出たガンマ線が全て放射線検出器に入るわけではありません。はいるのは一部です。この表では全体の0.1561(15.61%)が放射線検出器で見つかり、残りの0.8439(84.39%)は何処かに消えてしまうとしています。

p:試料重量
 検査するあんぽ柿の量です。量が倍になれば放射性物質も倍になるので、事前に重さを決めておく必要があります。また、販売するにもパッケージは同じ重さである必要があります。伊達産のあんぽ柿の重さは0.24kg(240g)と決めているみたいです、

q:補正なし濃度
 1キログラム当たりΔベクレルの放射性セシウムを含むあんぽ柿から、4個の検知器には合計で毎秒で何個の放射線が入るか見積もってみます。放射線のルートは3つあります。
 @放射性セシウムによるもの
 AK40からの放射線が化けた物
 Bバックグラウンド

 図―9 放射線検出器に入る放射線

 1ベクレルとは毎秒1個の放射線が出ていることを示します(15)ので、
  @のセシウム由来は
   重量(p)×放射性セシウム濃度(Δ)×効率(m)
 になります。
  AK40からの放射線は以下で見積もれます。
    カリウムのバックグランド(i)+あんぽ柿由来の放射線=Summerd K係数率(g)
になるので、あんぽ柿由来の放射線は
  あんぽ柿由来の放射線=Summerd K係数率(g)―カリウムのバックグランド(i)
になります。あんぽ柿由来の放射線の1.4922倍(k:Kからの寄与係数)が、カリウム由来の放射線が化けたものとして検査装置に入りますので、カリウム由来は
  {Summerd K係数率(g)―カリウムのバックグランド(i)}×1.4922倍(k:Kからの寄与係数)
になります。
  Bバックグランドは、BG Cs係数率(h)ですので、この3つを足して
  Summerd Cs係数率(f)=重量(p)×放射性セシウム濃度(Δ)×効率(m)+ {Summerd K係数率(g)―カリウムのバックグランド(i)}×1.4922倍(k:Kからの寄与係数)+BG Cs係数率(h)
になります。ここから記号を抜き出すと
     f=p×Δ×m+(g−i)×k+h -(1)
になり、変形して
    f−(g−i)×k―h=p×Δ×m -(2)
すなわち
  Δ=(f−h-(g−i)×k)÷p÷m -(3)
になります。
 以下に補正なし濃度の表−1の値と(1)で(=^・^=)が計算した値の比較を示しますが、値がマイナスになった1件を除きほぼ同じ値になっています。マイナスの放射性セシウム濃度は現実問題としてあれないので、実際のあんぽ柿検査装置では、マイナスが出た場合は「0」にしていると思います。


 図―10 (=^・^=)計算の表―1の値の比較

r:補正なし濃度誤差
 計測時間tの計測を1回行った場合、計数率Nと標準偏差σを計数率で表すと次のような式になるそうです。
 σ=√(N/t) −(4)
になるそうです(16)。(3)式のそれぞれに誤差があるので、それぞれの標準偏差を計算します。また、全体の標準偏差は各誤差を自乗し合計したのち√(1/2乗)します。途中式は省きますが以上の元に標準偏差σを計算すると

 σ=√(f/e+h/j+(g/e+i/j)×k×k)÷p÷m  −(5)
になりました。(3)式の比べ―(マイナス)が全て+に代わり、測定時間eやバックグラウンドの測定時間jで割っています。以下に記号を再掲します。

e 測定時間
f Summerd Cs係数率
g Summerd K係数率
h BG Cs係数率
i BG K係数率
j BG計測時間
k Kからの寄与係数
l トータルCs放出比
m Cs効率
n Csコンプトン寄与係数
o 補正係数
p 試料重量

 以下に(=^・^=)の計算結果と表―1の値の比較を示しますが、1対1に対応しているので(=^・^=)の計算が誤っているとは思いませんが、(=^・^=)の方が1キロ当たり1ベクレル程高く出ています。

 図−11 補正なし濃度誤差の比較

 なんか怪しさを感じます。名称は「補正なし濃度誤差」ですが、ここで出しているのは誤差でなく「標準偏差」であることに注意してください。

s:補正なし検出限界濃度閾値
 前項の「補正なし濃度誤差」は誤差でなく「標準偏差」です。小名浜漁港の検査では「標準偏差」の3倍を誤差としています(17)。この値は前項の「補正なし濃度誤差」(実質は標準偏差)の値を3倍しただけなので、これが測定誤差です。

u:CTC補正濃度
 あんぽ柿検査は8パッケージを同時に測りますが、検査器をみている限り(2)(4)、パッケージを仕切る遮蔽用の板はなさ無さそうなので、別のあんぽ柿からの放射線も拾うと思いますが、名前(CTC)からしてその分を補正していると思います。(=^・^=)はCTCを「cross term compensation」(相互項の補正)だと推定しています。補正前後の濃度の平均を比較すると
  補正前:14.15ベクレル
  補正後:8.83ベクレル
で4割低減しています。数学的に下がるのは正しいと思いますが、処理過程が明示されていません。基本的には8元の連立方程式を解かなくてはならないと思います。すなわち
 セル1の補正前濃度=係数11×セル1の補正後濃度+係数12×セル2の補正後濃度+・・・・
 セル2の補正前濃度=係数21×セル1の補正後濃度+係数22×セル2の補正後濃度+・・・・
 ・
 ・
 ・

ここでたとえば係数12は、ケース1にあんぽ柿からケース2の検出器に放射線が入る割合です。この係数は64個(8×8)あります。でも、Cs効率すべて0.1561で同じ値を使用しています。だたら64個のパラメータを設定しているとは思えません。まさか適当な計算式を利用してたりして・・・

v:CTC検出限界濃度閾値
 s、u項から想定し、別のあんぽ柿からの放射線の分を補正した誤差です。新たな補正加えたのですから補正前に比べて誤差は増えるはずです。以下に補正なし、ありでの「測定誤差」を示します。

図ー12 CTC補正前後の測定誤差(検出限界濃度閾値)の比較

補正すると下がっているものああります。誤差は処理をすればするほど累積していきます(16)。こんな事は起こるはずがありません。数値に信憑性がないと思います。

3 カリウム40の濃度
 カリウムを計測しているので、カリウム40の濃度を計算してみました。
  g:Summerd K係数率の平均 1.05
  j:BG計測時間の平均     0.50
  r:補正なし濃度誤差の平均 14.15
  u:CTC補正濃度の平均    8.83
あんぽ柿1パーッケージから検査器に届くカリウム由来の放射線は
 (gSummerd K係数率―j:BG計測時間の平均 )×(r:補正なし濃度誤差の平均÷u:CTC補正濃度の平均)
になると思います。ここで(r:補正なし濃度誤差の平均÷u:CTC補正濃度の平均)は、隣のあんぽ柿パッケージからカリウム由来の放射線を補正するための項です。するとこの値は
 毎秒0.343((1.05−0.5)×(8.83÷14.15)
になります。センサーで捕まるのは11.2%なので、放射線としては
 毎秒3.06(0.343÷0.112)
になります。これを効率と重量で割ると放射性カリウム濃度を求めると
 1キログラム当たり81ベクレル(3.06÷0.1561÷0.24)
になります。
 あんぽ柿なんどの干し柿は概ね100g当たり0.67gのカリウムを含みます(5)。カリウムは1g当たり、31ベクレルのカリウム40由来の放射性物質を含みますので、実際のベクレル数は1キログラム当たり
  208ベクレル(1kg÷0.1kg(100g)×0.67g×31ベクレル/g)
あるはずです。測定された値は実際の3分1程度しかありません。実際のあんぽ柿の放射性セシウム濃度も公表されている値の3倍だったりして・・・。
 
 ※(18)よりキャプチャー
 図−13 不合格がでたあんぽ柿検査

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―参考にしたサイト様―
(1)めげ猫「タマ」の日記 NHKの嘘報道―あんぽ柿は一部から国の基準を超える放射性物質
(2)福島大学環境放射能研究所
(3)伊達市農業情報紙『耕』 (平成25年) - 福島県伊達市ホームページ 中に「伊達市農業情報紙『耕』(第20号)(11月28日発行)」
(4)「あんぽ柿」出荷に向け、放射性物質検査始まる(福島13/12/02) - YouTube
(5)五訂増補日本食品標準成分表 [第2章]のNo07061
(6)カリウム - Wikipedia
(7)空間線量率の計算
(8)電子ボルト - Wikipedia
(9)航空機モニタリングマップ - 放射線情報 - Yahoo! JAPAN
(10)店舗・事業所一覧 - JA伊達みらいのホームページ
(11)伊達果実農業協同組合 - トップページ
(12)バックグラウンド放射線 とは - コトバンク
(13)コンプトン効果 - Wikipedia
(14)ベータ粒子 - Wikipedia
(15)めげ猫「タマ」の日記 ベクレルとシーベルト
(16)誤差伝播の法則
(17)小名浜魚市場
(18)福島特産あんぽ柿、震災後に初出荷「伝統の味、全国に」:朝日新聞デジタル

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